喘息のお話

 

 気管支喘息は、アレルギーが原因でおこる病気です。アレルギーとは、多くの人にはなんの反応を示さない物質に対して、過剰に反応してしまう状態と考えて良いでしょう。原因となる物質を抗原といいます。アレルギー体質のある人は、ある特定の抗原に対して IgE抗体という蛋白質を作り、過剰に反応してしまうのです。抗体にはいろいろな種類があり(IgG、IgM、IgA)、その多くは生体にとって有利に働くものなのですが、このIgE抗体は生体にとって不利に働いてしまいます。

どのような物質が抗原になるのでしょうか。 

 気管支喘息で最も多い抗原は家のホコリに含まれるダニです。またアレルギー性鼻炎の原因になる抗原はスギ花粉です。それ以外にも多くの花粉、カビが吸入抗原として、空気を介して肺の中に入ります。また一部の人は食物が抗原となります。牛乳、卵白、大豆が抗原として知られています。しかしこれらの食物抗原によって症状が出現し、食事を制限しなければならない人はとても少ないと考えられています。牛乳、卵、大豆は成長にとても大事な栄養源ですから、安易にこれらを制限しますと、栄養障害を起こしてしまいます。食事制限をするかしないかは、医師と相談してからにしましょう。最近アレルギーの原因として、衛生状態が良好になったことが原因と考えるようになってきました。衛生仮説と呼ばれるものです。感染を繰り返すこと、少量の抗原と早期に接触する方が、アレルギーの自然消失が期待できることがわかってきました。アレルギーマーチを予防するため、生直後より厳重な抗原除去をしなければならいとする、従来の考え方に大きな疑問が投げかけられています。

気管支喘息は治るのでしょうか。

 気管支喘息の発症には、遺伝因子、年令因子、環境因子の3つがあるといわれています。

(1)気管支喘息は遺伝性の疾患であることが知られています。しかしこの病気にかかわる遺伝子は一つのものではありません。いくつかの遺伝情報がそろった時に、気管支喘息が発症すると考えられています。両親が気管支喘息だから、子供も必ず気管支喘息になるとは限りませんし、また逆に両親が気管支喘息ではないから子供は気管支喘息にかからないとも言えないのです。この病気は遺伝的な体質によって発症するものですから、その体質を変えることはできません。しかし年令因子も大きく関わる病気ですので乳幼児期の対応がとても大事となります。

(2)気管支喘息の多くは1〜2才以降に発症し、10才頃に症状が出なくなります。小児期にだけ、症状が出るため、小児喘息と呼ばれることもあります。成人まで病気が続く人もいますが、そは乳幼児期の対応に問題があったとされています。乳幼児期に適切に対応すれば、成長に従って治る病気なのです。

(3)気管支喘息の発症には環境因子もあります。ダニ等の抗原が多い環境は、発作が起きやすいといわれています。排気ガス等の公害がその発症にかかわっていることはよく知られています。タバコによる悪影響もとても大きな因子といえます。症状を出させないためには、この環境因子をできるだけ、少なくすることが大事です。上気道感染が喘息を誘発、悪化させることから、風邪の予防が重要とされてきました。しかし最近この考えは誤りと言われるようになってきました。小児期に気道感染を多く経験した小児程、思春期以降の喘息発作頻度が著明に低下していることがわかってきました。乳幼児期には風邪に罹ることも大事、それにどう対応するかも大事ということになります。

どのような症状が出るのでしょうか。

 気管支喘息は、末梢の気管支にアレルギー反応が起こり発症します。気管支の一部が発作的に細くなります。細くなる原因は三つあります。まず第一は気管支の平滑筋が発作的に収縮するこによって起こります。これを気管支の攣縮といいます。突然始まる発作は気管支喘息の大きな特徴といえます。あとの二つは、アレルギー反応に引き続いて起こる、分泌物の増加によるものと気道粘膜の浮腫によるものです。症状は気道の細さの程度によって違います。程度が軽いと、咳だけがみられます。さらに細くなると、空気がその部分を通る時に笛のような音がします。程度が軽いと聴診器を当てたときだけ聞こえますが、さらに細くなると外からでも喘息特有のゼーゼーという音が聞こえます。息を吐くときにより強く聞こえるのが特徴です。もっと細くなりますと、呼吸が苦しくなり、呼吸数が増え、肩で呼吸をし、話ができなくなり、水分も飲み込めなくなります。

どのように治療するのでしょうか。

 気管支喘息はすぐには治らない病気です。治療の目的は、症状を抑えることによって、日常生活を快適に過ごさせること、および慢性炎症を抑え気管支の肥厚を予防することにより成人期への喘息持ち込みを防ぐことが上げられます。治療法はその症状の程度によって選択されます。現在国際的に重症度に応じた薬物治療のガイドラインが示され、それに沿った治療が薦められています。気管支喘息の治療は、環境の整備と薬による治療が基本です。

環境整備

気管支喘息の発症因子として環境因子がありますので、まず日常生活においてこの環境因子を取り除く必要があります。家のホコリに含まれるダニが抗原となっていることが多いのですから、ダニを少なくすることが大事です。ダニは畳やカーペット、枕、フトン、ぬいぐるみ等にいます。ダニは熱に弱いですから、日光に当てることは効果があります。よくホコリを吸引することも必要です。羽毛枕、羽毛フトンはあまりよくありません。水洗いできるものがよいとされています。タバコは喘息に悪い影響を与えますので、タバコは家で吸わないようにしましょう。また人によっては犬、猫、鳥等のペットが原因となることがあります。ペットに関しては医師とよく相談するようにして下さい。

薬物治療

(1)気管支拡張剤

 細くなった気管支を拡げる薬です。アミノフィリン(標品名:テオドール、テオロング、スロービット)と呼ばれる薬剤と、β刺激剤(標品名:メプチン、ベネトリン、ベラチン、ブリカニール、アロテック、スピロペント)と呼ばれる薬剤があります。症状に応じて選択され、時に併用して使われることもあります。これらの薬は量を増やせば増やす程効果が出ます。最初は経口薬として用いますが、発作がひどくなると経口投与だけではおさまらなくなります。アミノフィリンを増量する場合は、静脈注射または、持続点滴注射が行われます。またβ刺激剤を有効に作用させるために、ネブライザーとして吸入する方法がとられます。これらの薬は量を増やせば効果も上がる反面、副作用の頻度も高くなります。副作用としては、動悸、頭痛、嘔吐、痙攣等があります。指示された薬の量を必ず守って下さい。

(2)水分の補給

 痰を排泄させるためには水分を補給する事がとても大事です。発作がひどくなると、水分の摂取が悪くなり、痰が固くなり排泄が悪くなります。水分は薬だと思って十分にとるよう心がけて下さい。スポーツドリンクは吸収がよいので、発作の治療には適しています。経口的に水分が補えない時は、点滴をすることになります。

(3)ステロイドホルモン剤

 気道粘膜の浮腫をとる目的で、ステロイドホルモン剤が使われます。ステロイドホルモン剤は、大量に長期間連用しますと、肥満になったり、感染症にかかり易くなったりと多くの副作用が出ます。しかし短期間だけの使用ですと、副作用の心配はほとんどありません。ステロイドホルモンには、経口薬と吸入薬(標品名:アルデシン吸入薬、フルタイド)があります。気管支喘息には肺に直接投与できる吸入薬が有効です。直接肺に投与しますから投与量も少なく、粘膜からの吸収がほとんどないことから副作用もほとんどありません。現在治療の主役になっています。小児に投与しますと身長の延びが抑制されるとされてましたが、その後の長期の観察から、身長の抑制はないとされ、小児にも安全に投与できることが報告されています。

(4)抗アレルギー剤

 発作の頻度を少なくする抗アレルギー剤(標品名:ザジテン、アゼプチン、リザベン、インタール)、抗ロイコトリエン剤(商品名:オノン、シングレア、キプレス)と呼ばれる薬があります。アレルギー反応を起こし難くする効果があります。副作用がほとんどなく、数年間長期投与が可能です。しかし経口薬の効果は個人差があり、全ての人に有効ではありません。

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