下痢のお話

 

 下痢は食べた物を十分に消化吸収できなかった時に起こります。消化器、特に小腸、大腸の働きが十分でない時に、下痢をすることがほとんどです。食べ過ぎても下痢を起こすことがありますが、その時はそれ程ひどい下痢にはなりません。軟便が1日に2、3回程度であれば、特に心配はありません。子供で小腸、大腸の働きが悪くなる原因のほとんどは、病原体の感染による小腸炎、大腸炎によるものです。病原体はウィルスと細菌が主なものです。

 

ウィルス性腸炎はどのような症状が出るのでしょうか。

 腸炎を起こすウィルスとして、ロタウィルス、カリシウィスル(従来小型球形ウィルスと呼ばれていたもの)、アストロウィルスがあります。ロタウィルス、アストロウィルスは乳児に多く発症しますが、カリシウィルスは年長児、時に成人にも発症します。カリシウィルスのうち主なものはノロウィルスと呼ばれるものです。ウィルスの主な感染部位は小腸ですので、最初は嘔吐がみられ、その数日後に下痢が始まることが多いのが特徴です。嘔吐だけで下痢がはっきりしないこと、また嘔吐と下痢が同時に始まることもあります。初めは水様の便が1日に5回以上でますが2、3日で回数が減るか、または一回の量が減ります。少量頻回の便、または1日2、3回の軟便が4、5日続きますが、その後徐々に治まります。ウィルス性腸炎は自然に治りますし、また自然に治るのを待つよりないのです。

 

細菌性腸炎はどのような症状が出るのでしょうか。

 細菌性腸炎とは食中毒のことです。サルモネラ菌、赤痢菌、病原性大腸O-157による腸炎は怖い病気として知られています。最近はエルシニア菌、キャンピロバクターによる、比較的軽症の細菌性腸炎も知られるようになってきました。細菌性腸炎の特徴は、感染部位が大腸であるため、嘔吐より下痢が主症状であること、集団発生すること、血便が出ること、腹痛が強いこと等から、ウィルス性腸炎とは区別ができます。しかし、なかには区別のつきにくいものもあり、そのような場合には便の培養検査が必要になります。

 

下痢があるときはどうすればよいのでしょうか。

(1)脱水を予防しましょう。

 ウィルス性腸炎、細菌性腸炎にかかわらず、腸炎の治療で最も大事な事は、脱水の予防ないしその治療であり、脱水治療の基本は経口補液療法です。十分な水分が吸収されるためには水以外に、糖分と塩分が必要です。お茶や白湯では水だけですので、あまり良くありません。普通のジュース類は糖分が多すぎる割に塩分が少なく、味噌汁、ラーメンスープは塩分が多い割に糖分が少ないのでこれもまたあまり良くありません。市販の飲料水としては、スポーツドリンクが最も適当と思われます。自家製のジュースに、薄味の砂糖と塩を入れた飲料水でもかまいません。嘔吐がある場合でも、これらの水分を少量ずつ頻回に与えると、脱水の予防ないし治療ができます。脱水があるのかないのかの目安として、尿の回数を確認することがとても大切です。下痢の時は尿か便か、分かりにくいですが、頻回におむつをはずして尿の回数をみて下さい。1日5回以上の排尿があれば、脱水の心配はないでしょう。1日3回以下ですと脱水の可能性がありますので、頑張って水分を与えてください。点滴も脱水の治療として有効ですが、200ml程度の短時間点滴はあまり意味がありません。少量でも消化器に栄養を供給していく経口補液療法が、その後の回復が速いことが知られています。

 

(2)下痢をすぐに止める必要はありません。

 下痢は身体に入った病原体を身体の外に出すための、生体の正常な反応です。下痢をすることにより病気が悪くなるのではなく、良くなるのです。下痢で失われた水分がきちんと補われ、脱水がなければ、下痢が続いていても心配ありません。

 

(3)下痢をしている時でも食事は与えて下さい。

 下痢をしている時、下痢を止める目的で、絶食をする必要はありません。絶食期間が長いと、腸の機能回復が遅れてしまいます。少しでも良いですからバランス良く食事を与えて下さい。ただし刺激物、脂肪分の多いものは避けて下さい。

 

(4)お風呂に入れて下さい。

 本人が元気なら、お風呂に入れてもかまいません。そのために、下痢が悪くなることはありません。しかし、なが湯、あつ湯は負担が大きいので良くありません。下痢があると身体は汚れがちになります。特におむつをしている場合は、汚れがひどくなりますので、お風呂に入れて清潔にしてあげて下さい。

 

(5)下痢の薬。

 細菌性腸炎の一部は、抗生物質が必要になりますが、ウィルス性腸炎に対しては、抗生物質は無効です。下痢を止める多くの薬は(ロペミン等)、消化管の運動(蠕動)を抑制する作用があります。一時的に下痢が少なくなり、良くなったようにみえても、病気はかえって長引きます。腹痛には有効ですので、その時には必要になりますが、腹痛がひどくなければなるべく使用しない方が良いでしょう。嘔吐を伴うことが多く、嘔吐を抑える薬(ナウゼリン)を使用することがあります。この薬は消化管の運動を亢進させる作用があり、ロペミンと反対の効果をしめしますので、両者を併用することは理屈にあいません。症状に応じてどちらかを選びます。整腸剤と呼ばれる薬は、下痢を止める効果はありませんが、悪化を防ぐ効果があるとされています。副作用がないことから、よく使われる薬です。

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