感染症と免疫
免疫の機能
免疫は多くの免疫担当細胞と全ての臓器との複雑で緻密なネットワークによって構成されている機能です。その目的は生体の恒常性を維持することにあります。生体は常に変化しています。全ての細胞には寿命があり常に新しい細胞に入れ替わっているのです。古くなった細胞、感染等で損傷を受けた細胞を取り除く機能が免疫です。生体の恒常性を妨げる原因は経年劣化、感染、細胞の癌化が主なものです。古い細胞が新しい細胞に入れ替わる時、癌細胞を取り除く時に症状が出ることはありません。これらは日常的に免疫機能により処理されています。
感染症と免疫
微生物との共存も免疫の重要な役割です。全ての生物は微生物との共存で成り立っています。外と接触する細胞を上皮細胞と呼びます。皮膚、呼吸器粘膜、消化器粘膜は上皮細胞であり、常に体外の微生物と接触し、また多くの微生物が上皮細胞に常在し細菌叢と呼ばれる状態を維持しています。その上皮に囲まれた部位は無菌状態です。病原性の低い微生物は常在させ、体内に侵入させない機能が免疫機能です。病原性の高い微生物は体内に入り込んできますが、これを取り除くのも免疫機能であり、そこで行われる現象が感染症と呼ばれる病気になります。微生物が上皮細胞を破壊して侵入する時生体は敏感に反応し、粘膜症状(鼻水、咳、咽頭痛、嘔吐、下痢等)を出します。最初自然免疫と呼ばれる細胞集団が局所に動員されます。そこから出たシグナルにより免疫細胞群が活性化され、強い粘膜症状、発熱等の症状が出てきます。自然免疫は早期に反応しますが、その機能はそれ程強力ではありません。病原性の低い微生物ならそれで治まりますが、病原性がある程度高いと自然免疫だけでは治まらず、より進化し、強力になった獲得免疫が動員されます。獲得免疫の始動、種類、程度を規定するのは自然免疫であり、免疫の統御を行っていると考えられています。
特異性と記憶
獲得免疫の際立った特徴は特異性と記憶です。感染症は例外なく、免疫と呼ばれる機能により治癒させることができます。風邪のウィルスは極めて多くあり、そのウィルスとの共存が生命現象の基本です。共存の為に必須の機能が免疫です。初めてのウィルスに感染すると、免疫が充分に作動するまで1週間程度の時間がかかり、その間に発熱や粘膜症状である咳、鼻水、下痢等の症状が出ます。免疫機能が働くとウィルスを速やかに処理し感染症を治癒に導きます。これを免疫の一次応答と呼びます。一旦その病原体の感染を経験するとその記憶が生涯持続します。記憶があれば次にその病原体が侵入しても直ちに免疫が反応し病原体を処理しますので、症状がなく、感染を終了させます。これを免疫の二次応答と呼びます。免疫の特徴である特異性があるため、その記憶は罹患したウィルスおよびその近縁のウィルスにのみ反応します。病原体は極めて多数存在しますのでそれら全てに記憶を作るためには数年はかかります。1才から5才までがまさにその記憶作りの期間なのです。多くの感染症は自然経過に任せても全く問題ないのですが、一部の感染症は初感染の時、免疫の立ち上がりが始まる前に重篤な臓器障害を起こし時に不幸は転帰を迎えてしまします。また一部の病原体は免疫機能を抑制し、重篤な症状を出してきます。それを予防するのが予防接種です。弱毒した病原体を投与し、症状が出ないように一次応答を完了させるのがワクチンです。そこで免疫記憶を作ればその病原体に感染しても二次応答となり、速やかに免疫機能が作動します。免疫の記憶は生涯持続しますが、その記憶力はゆっくりとではありますが低下します。ある程度低下すると感染したときに症状が出てきます。そこまで低下させる前に追加免疫をかけ、記憶力を高める必要があります。そのために必用なことは、通常の集団生活を続けること、予防接種を必要に応じて受けることです。感染症の予防方法として、病原体の隔離は有効な方法でありますが、これはごく一部の特殊は病原体に対しては必要ですが、例外的な方法ともいえます。免疫記憶を維持し、種々の微生物と共存する視点から感染予防を考えることが重要です。